仮面倶楽部
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「あなた、行ってきます。」
「ああ。必ず..必ず無事に帰って来るんだぞ。」
「大丈夫。私を信じて待っていて..。」
「うん..。」
妻の美和を『相手』のもとへと送り出して、既に2週間が経過していた。
その間、美和からは何の音沙汰も無い。
携帯の電源は消息を絶った夜から切れたまま。友人はおろか、親兄弟にも連絡した
形跡は無かった。
「美和..一体君はどこに居るんだ..?」
失踪4日の後、近くの警察署に捜索願は出したものの、警察からは何の音沙汰も無い。
警察署には時々顔を出してはいるのだが、「ご主人、お気の毒としか言いようがありません
なあ。奥さんの様なケースだと、8割方見つからないケースの方が多いんですよ。」
そう言って肩をポンポンと叩かれるだけだ。
『伊藤』なる男と妻の美和が再会したのは、昨年暮れの同窓会の時のことだった。
伊藤は妻の2年先輩、かつての妻の恋人だった男だ。
大学の頃、妻と同じテニスサークルに属し、花形選手だった伊藤は、バブルの頃に花形職種
だった証券マンになったものの、30半ばにしてリストラに遭い、今や職を転々とするフリ
ーター同様の生活を送っている。妻子には愛想をつかされ、とうに独り身になっており、言
わば『バブル崩壊』の不幸を一身に背負うような人生を送っていた。
「伊藤君、ダメ。しっかりして..。死ぬしか無いなんて、そんな事を言わないで。私が
ここに居るじゃない...。」
失う物も無くし、失意のどん底にあるかつての恋人を見た妻が、同窓会の夜、酒の勢いも
手伝って、同情から身体を許してしまったのは、ある意味、当然の成り行きと言えた。
『焼け木杭に火が点いた』わけでは無い。かつての恋人が不幸のどん底に喘いでいるのを
見て、あまりにも優し過ぎる妻は、それを黙って見過ごす事が出来なかったのだ。
身体を合わせ、暖め合う事で、冷えきった心に火を灯したい...。
ただ、それだけの思いから、妻は伊藤に一夜の身を任せたのだった。
だが、それが『大きな過ち』であった事を、すぐに美和は思い知らされる事になる。
もはや失う物が何もない伊藤は、執拗に妻につきまとう事になったからだ。
勿論、私との間に幸せな結婚生活を築いている美和に、かつての男とよりを戻すつもりなど
さらさら無い。美和にとって伊藤との一夜は、あくまで同情によるものに過ぎず、決して
恋愛感情に依るものでは無かったのだ。
しかし、卑劣にも伊藤は「もし呼び出しに応じなければ、夫である私に全てを暴露する。」
と美和を脅迫した。
たとえ『たった一度の出来事』であっても、『不倫』は『不倫』である。
勿論気の弱い美和に『一夜限りの慰め』にと、かつての恋人に身体を許した事など、夫に
言えるはずもない。
結局、伊藤の呼び出しに応じて、再三再四と身体の関係を続ける事になった。
しかし、美和の行為は、遂に私に知れる所となる。
一向に自分になびこうとしない美和に腹を据えかねた伊藤は、美和と私の関係を破綻させ、
自分自身の元へ美和を引き寄せるべく、美和との決定的瞬間を撮影した写真を私に送り
つけたのだ。
それは明らかに一目で美和とわかる女性を、ラブホテルらしき一室で後ろから貫いている
写真だった。
モチロン男は写っていない。正確に言えば、美和の女性器を貫く赤黒いペニスだけは
撮されていたが。
当然私は激怒した。美和をなじり、結婚以来一度も発した事の無い罵声を浴びせかけた。
美和は泣いて許しを請うた。そして、全てを告白した。
かつての恋人が不幸のどん底に喘いでいる事を見過ごす事が出来なかった事、そしてその
恋人の豹変によりズルズルと身体の関係を強要され続けて来た事...。
私は、『優しさゆえに』かつての恋人に騙され、そして『愛ゆえに』夫に事実を告白する
事が出来なかった美和に、心から同情した。
『怒り』は『哀れみ』に変わった。
妻は私を裏切ったのでは無かった。裏切る事が出来なかった故に、私を悲しませない為に、
伊藤との関係を続けていたのだ。
私は美和を許した。妻の本当の心を知った今、私には妻を許すしか無かったのだ。
泣いて許しを請う美和を優しく抱きしめると、小さな肩が、ブルブルと震えていた。
全ての誤解が解け、変わらぬ愛を確かめた合ったその瞬間、妻の携帯が鳴った。
伊藤からの『呼び出し』だった。
夫である私に全てが露見した今、もはや夫の元に居られないはず..
そう思った伊藤からの『駆け落ち』の誘いだった。
妻は決意した。
このままズルズルと伊藤との関係を続けるべきでは無い。『同情』は『愛』では無いのだ。
妻は私に言った。
「伊藤さんには、きっぱり別れを告げて来ます。私の愛する夫は貴方一人なのですから。」
私は頷いた。妻の心に微塵の疑いなど無かったからだ。
伊藤の呼び出しに応じ、待ち合わせ場所であるファミレスに出かける妻に向かい、私は言った。
「必ず..必ず無事に帰って来るんだぞ。」
そう呼びかける私に、妻は微笑みながら応えた。
「大丈夫。私を信じて。」と。
しかし、結局その夜、妻は帰らなかった。
正直に言えば『裏切られた』と感じたのも確かだ。
それでも私は、『3日』待った。
「ただいまぁ、心配かけてすみませんでしたぁ。」
ニッコリ微笑みながら、妻が玄関のドアから顔を出すような気がしていた。
それは一種の、『願望』だったのかもしれない。
しかし、4日目の朝を迎えても妻は帰って来なかった。
『真剣な思い』で『捜索願い』を出しに行った私に、警察の対応はいかにも冷淡なものだった。
無理もない。妻が失踪前に会いに行った男が、『妻の不倫相手だった』と知れば、誰が聞いても
『駆け落ち』と思って当然だろう。
...事実、そう思われていた。
「妻はきっぱりと別れるつもりで出て行ったのだ。」と主張する私に応対の刑事は言った。
「そりゃあね、駆け落ちする前に、わざわざ夫に『これから駆け落ちするつもりだ。』なんて、
言う女は居ませんよ。アンタ、気の毒にねぇ。女房と間男にグルで騙されたんだよ。まあ、
捜索願いを出されても、果たして奥さんがご主人のもとへ戻って来るかどうかは疑問だね。
だいたい、奥さんが出て行くって言うのは、アナタにも責任があるんじゃ無いのぉ?」
妻がかつての恋人と駆け落ちしたのは、まるで私にも責任があるかのような言い方だった。
「ま、ともかく捜して見ますよ。ただ、奥さんが出て行った原因が『ドメスティック・バイオ
レンス』など、ご主人にある時は、見つかっても居場所をお知らせ出来ない事がありますから
ね。それだけは承知しておいて下さいね。」
無情な言葉を言い放つ刑事の言葉を背にしながら、警察署を出た私は、妻への追慕の念を益々
募らせるのであった。
2週間後、私のもとに一通の手紙が届いた。
差出人は『伊藤』。
妻のかつての恋人であり、不倫相手であり..、そして失踪前の美和を知る唯一の男だ。
もどかしげに封を切った私の目に飛び込んで来たのは、妻の美和のあまりにも変わり果てた
姿の数々であった。そして添えられた『手紙』と『契約書』...。
添えられた一通の手紙には、こう書かれていた。
「前略 ご主人様には美和の事で大変ご心痛の事と、拝察申し上げます。本日お手紙を差し
上げましたのは他でもございません。かつて貴方様の妻であった『美和』の近況についてです。
過ぐる2週間前、貴方様の意を受けて、心ならずも私に別れを告げに来た美和を、永遠に私の
ものとする為に、私は美和を連れ出し、私の友人である『仮面倶楽部』の皆様にご紹介して
差し上げました。そして2週間の時を経て、今や仮面倶楽部の一員として、幸せな日々を送る
『美和』の晴れ姿を是非、貴方様にもご覧頂きたく..。」
伊藤の手紙に書かれていた『仮面倶楽部』とは、会員男女全員が頭からマスクを被り、夜毎
乱痴気騒ぎを繰り返す、SM主体のセックスサークルの事だった。
都内某所の地下施設(噂によれば、官憲の手の及ばない某国大使館の地下室とのことだが)
に会員となった女性を全裸監禁し、訪れる男性会員による徹底的な嗜虐調教が施されるのだと
言う。
下は16才から、上は40代まで、様々なルートで拉致されてきた『女性会員』は、
全員が檻に囚われ、契約によって男性会員共有の『性的奴隷』にされている。
女性会員に男性会員を拒否する権利は無い。
集団レイプ、鞭打ち、ロウソク責め、飲尿、エネマ責め、吊り責め、木馬責め、刺青、性器
ピアス、性器整形、獣姦レイプ...ともかく、ありとあらゆる男性会員の求めに応じなければ
ならない。
マスクを被らされているのは、勿論身元を隠すと言う理由が最も大きいが、何よりも
一様にマスクを被る事で、全ての人格を否定する意味の方が大きいのだと言う。
男性会員は入退会は自由だが、女性会員に退会の自由は無い。つまり、入会したが最後、死ぬ
まで仮面倶楽部の会員で居続けなければならないのだ。
もっとも、『退会』を自ら望む女はいない。モチロン、ここで老いて死んで行く女も。
女としての魅力が失せたと判断されたが最後、女は『退会処分』とされる。
そして『退会処分』は文字通りの『存在消滅』を意味していた。
『退会』とされた女は、いつの間にか檻の中からその姿が消え、闇から闇へと、その存在が
葬り去られて行くのだ。
一説に依れば女達は海外の人身売買市場へと売られて行くのだと言う。或いは、臓器や肉を
バラバラに取り出され、臓器市場や、一部のマニアによる人肉市場に流れて行くのだと言う。
だが、その行方は誰も知らない。
だからこそ、女達は自らの性技を磨く。男の為では無い。
檻の中から闇の世界へと連れ出され、本当に『消される』のを恐れての事だ。
生き延びる為だ。生きて脱出する日を夢見てのことだ。
全ての女達は、『いつかこの地獄から救い出されるのでは無いか?』と期待している。
21世紀のこの世の中に『ソドムの市』の様な『悪徳』が長くはびこるはずは無い。
必ずいつか、正義の鉄槌が下される日が来る。...そう信じている。
しかしモチロン、『救援』の手が、ここに及ぶ事は無い。
なぜなら、男性会員達が何れ劣らぬ『権力者達』ばかりだからである。
マスクを被り、夜毎地下室を訪れては、性的奴隷にされた女達を責め嬲る彼らの表の顔..。
それは実力政治家であり、企業経営者であり弁護士、医者、高級官僚と言った表の世界を支配
するエリート達に他ならない。
彼らがスキャンダルの発覚を恐れる限り、女達の存在が再び世に出る事は無い。
仮に妻を拉致された夫が警察に訴え出たとしても、『駆け落ち』として一笑に付されるだけだ。
男性会員の中には、名だたる警察官僚、検察官僚もその名を連ねている。
女一人、その存在をこの世から抹殺する事など、彼らが結託すれば造作も無い事なのだ。
写真の中には、一枚だけ妻の顔が撮されているものがあった。
それは仮面倶楽部入会の儀式...。
何人もの男に貫かれ、『入会契約書』なる奇妙な文書を顔の脇に掲げられた妻は、喜悦と
苦痛、そして諦めと哀しみといった複雑な思いを込めた笑みを浮かべながら、何本もの
ペニスに『奉仕』させられ続けていた。
『人間として』顔を隠さずに存在が許される、『最後の瞬間』の顔。
入会の儀式を終えた後、会員によって尼僧の様に髪の毛を短く刈り取られた妻に革製の
マスクが被せられる。マスクには会員番号が刻まれており、女は終生その番号で呼ばれる
事になる。
髪の毛を刈り取る事は、勿論、『女としての人格』を否定する意味もあるが、最大の目的は
衛生上の観点からだ。毛髪に湧くケジラミ等による感染症を防止する為に、女の髪を刈り取る
事は重大な事なのだ。(同じ理由により陰毛もツルツルに剃られる。)
マスクは劣化により交換される事もあるものの、『生きている限り』、取り外す事は
許されない。
つまり、美和はこれからの一生を、このマスクを被ったまま過ごさなければならないのだ。
一旦マスクを被らされたが最後、女はその顔を奪われる。
つまり『存在』そのものが否定されることになるのだ。
もはや美和は私の妻では無い。私の様な男には手の届かない存在として...、『仮面倶楽部
女性会員69番』として、顔と人格、そして幸せな人生を奪われ、ただ男達の劣情に奉仕させ
られるだけの存在として、その生を許されるようになってしまったのだ。
「いかがですかご主人?今、美和はとても幸せな生活を送っています。365日、24時間、
セックスのことだけを考えれば良いのです。掃除、洗濯、食事や入浴の準備、夫の世話、
そして、育児や老親介護と言った、煩わしい日常から一切隔離され、純粋に『牝』として
生きれば良いのです。女にとって..、いえ、美和にとってこれ以上の幸せがあるでしょうか?
そして今、私も仮面倶楽部の一員として、遂に入会を許される事になりました。女性会員を
紹介した者には、無条件で入会資格が与えられる事になっているんです。私の様な一介の
無職者には勿体無い事ですが、おかげ様で一部上場企業に部長として就職する事が決まり
ました。全て仮面倶楽部から頂いたご配慮のおかげです。
私にこのような運命を切り拓いて頂いた『69番』には、本当に感謝しています。」
手紙は『69番』に対する感謝の言葉で結ばれていた。
そう...もはやこの世に私の妻である『美和』はいない。
『仮面倶楽部女性会員69番』..それが今の美和の正式な名前だ。
そして、しがないサラリーマンに過ぎない私に、『69番』に会える機会が訪れる事は
永遠に無いだろう...。
私は『69番』の淫らな姿態、そして添えられた『契約書』を、もう一度マジマジと
見つめた。
手紙に添えられた仮面倶楽部入会契約書には、明らかに美和の性器で捺印された『マン拓』
が残されていた。
そして顔を奪われた女達の、悲鳴が聞こえるような『生々しい』写真の数々...。
「...美和..」
私は何度もその写真に呼びかけた。顔がわからないよう頭をスッポリとマスクで覆われ、
性器のみを露出した、文字通り『頭隠して、尻隠さず』の惨めな格好でいても、妻の
肉体の特徴だけは覚えている。豊満な乳房、キュっとくびれたウエスト、そして白桃の
様な尻肉。
顔を隠してはいても、写真の女は間違いなく妻の『美和』そのものだった。
今、この瞬間も男達の間でサディスティックな陵辱にまみれているであろう愛妻を思い
..、私は思わず下半身に手を伸ばした。
美和の..、いや、『69番』の淫らな『晴れ姿』に昂奮し、久々に男の本能が蘇った
のだ。
「美和...ああ..美和...ボクは...ボクはもう耐えきれないよ。」
拉致、監禁され、永遠の性奴隷に貶められた妻の哀れさには涙するしかない。
しかし同時に、その姿を見た自分自身の中に、『男の本能』が、徐々に頭をもたげて
来るのを禁じ得なかった。
トランクスの中をまさぐる。
そこにあるのは隆々とした自らの愚息...。
勃起していた。かつての恋人に罠にはめられ、夫の知らないうちに淫虐地獄に貶められた
妻の姿に、私は昂奮していた。もはや『伊藤』に対する『怒り』も、『かつての妻』に
対する『哀れみ』も無く、そこにあるのは、『射精したい...。』と言う欲望のみで
あった。
先端から透明な粘液を滴らせている愚息を上下にしごきながら、私は背徳の劣情に沈む
自分自身の吐息を感じていた..。
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