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犬女郎哀歌第1話 

犬女郎哀歌1  生類憐れみの令

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時は元禄、5代将軍綱吉の治世。江戸は未曾有の繁栄に潤い、

文化は爛熟を極めていた。

泰平の世に富と力を得た商人は武士に変わって実質的権力を

握り、質実剛健を旨とした武家の間にも、町人の生み出した

退廃的な文化が確実に浸透して行った。


だが、繁栄の裏には必ず陰の部分がある。折しも天下の悪法

と言われた「生類憐れみの令」の世。

もとを質せば公方の仏教的世界観に端を発し、動物のみなら

ず人間に対しても虐待を禁止する等、人権擁護や自然保護等

世界的に見ても当時としては画期的な発想に基づく一連の法

令を、総称してこのように呼んだものであるが、その運用が

あまりに厳密に過ぎた為に、数多くの罪なき人々が極刑に処

せられ、無念の涙を呑む事になったのである。

..と言うのも、綱吉自身が戌(いぬ:以下『犬』と記述)

年の生まれであった為に、殊の外『犬』を手厚く保護し、

いかなる理由があっても、これに狼藉(:暴力)をふるった

者には、極刑を科すこととしたからである。

かくして昨日までの犬畜生は、「お犬様」と呼ばれ、すべて

の民びとがこれを敬う事を強要されることと相成ったのである。

この時代、馬鹿げた事ではあるが、人間の福祉よりも犬への

福祉が優先され、江戸の各地に『御料所』と呼ばれる餌場が

設けられ、幕府自らがその経営にあたった。

だが、行き過ぎた保護政策によって増えすぎた犬は増加・

増長した。

野犬はおろか、自らの飼い犬すら、誰も犬を躾けられなくな

った。勿論、我が身に災厄が及ぶのを恐れたが為にである。



そうして我が儘一杯増長した犬畜生どもが、江戸の各地で暴

れ回っていた。

多くの者が「お犬様」の牙にかかり、悲惨な目に遭った。

その多くは弱い者から犠牲になった。

もちろん、黙ってやられている人間ばかりでは無かった。

幾人かの勇気ある者が果敢に抵抗し、その牙を退けたのである。



だが、我が子を噛んだ犬を殴り殺した父親は捕らえられ打ち首

となり、襲って来た犬に抵抗し怪我せしめた男は、『手向か

い致した』罪により、百叩きの刑を受けることになった。

小伝馬町の牢番所門前に於いて、竹を束ねた太笞によって、

肉が裂け、骨が出るまで激しく打ち据えられたのである。

しかし、いかに公方(くぼう:将軍)様の命とは言え、正直

なところ幕府は「お犬様」の暴虐に手を焼いていた。

「お犬様」の保護と、「お犬様に逆らった」民衆の取締りに

人出を取られ、このままでは、幕政に障りが出るおそれが出

て来たのである。

殊に役人が手を焼いたのは、気の荒い、オス犬に対する対策

であった。当代の幕閣にとって、暴れ犬の大多数を占める

オス犬に対する宥和策こそは、まさしく焦眉の急の問題で

あった。

これについてはいささかの解説を要する。

元々自然界では、メスに比べてオスの方が圧倒的に多く生ま

れる事になっている。

それはなぜか..?

理由は明快である。メスに比べ、病気等に対する抵抗力が弱く、

『縄張り』と言う名のテリトリー(:個体として生存を確保

しなければならない生息地域)を拡大しなければならない

オスは、その激しい生存競争故に成長につれ淘汰され、適者

だけが生存を確保できる仕組みになっている。

こうした『見えざる神の手:自然の摂理』により、犬は成犬

に達する頃、オス・メス丁度釣り合いが取れる個体数となる

ようになっている。

..はずだった。

だが、行き過ぎた保護政策はオス犬の生存率を飛躍的に向上

させた。生存域の拡大による生存競争緩和、餌の確保と言った

幕府の政策により、オス犬は生存競争で淘汰されなくなった。

その結果、成長した時に、オス・メスの個体数の割合に極端

なアンバランスが生ずる結果となったのである。

盛りの付いたオス犬はメス犬を求めうろつきまわる習性がある。

メス犬を奪い合う為に、盛りのついたオス犬は凶暴化し、

その為なら殺し合いさえ厭わない。

そうしなければ自らの遺伝子を後世に伝える事が出来ないからだ。

だが、通常メス犬は、発情期以外は交尾をしない。

発情期以外の時に近寄ってくるオス犬には、むしろ敵意すら

剥きだしにする。出産直後のメス犬に近づいたオス犬の中には

かみ殺される犬さえいる。

だから、運良く『発情中』のメスを射止めたオスはいいが、

メス犬と交尾出来なかったオス犬は、その性的エネルギーの

行き場が無くなってしまう。

こうして積もり積もった欲望の、或いは凶暴化した暴力のはけ

口か、オス犬をして人間を襲うようにさせたのである。

幕府は、民衆と『お犬様』との騒動を避ける為、中野・新宿を

はじめとする、城下周辺の各地域に『お犬様御料所』を作り、

兇暴化した数万の犬を分散収容、扶持を与えた。

だが、雌雄の固体比から考えれば容易に想像のつくことだが、

集められた凶暴な犬は、結果として殆どがオスだった。

こうして御料所自体が、『欲求不満のオス』ばかりの巣と

なってしまった為、満たされぬ欲求不満で、犬達はますます

兇暴化して行ったのである。

脱走した犬達による不始末、或いは暴れ犬を相手にしての

御料所の運営は、それこそ困難を極めた。

もちろん、幕閣としても手をこまねいていたわけでは無い。

後述するような種々の対策を講じ、事態収拾に努めようとした。

だが、いかなる努力も徒労..所詮は『焼け石に水』だった。

何となれば、江戸八百八町はおろか日本全土のメス犬の絶対

数が不足していたのである。

公儀の無為無策が講じた結果は、明らかであった。

保護された犬どもは欲求不満のはけ口を求め殺し合い、その

個体数を減らして行った。

脱走は日常化し、市中に躍り出た犬どもは暴虐の限りを尽くし、

時に幕吏すら傷つける結果となった。

犬同士の殺し合いにより、凶暴な犬どもが減ることは、内心

喜ばしいことではあったが、尊い『お犬様』を死なせたこと

が万一公方様のお耳に入るような事でもあれば、それこそ由

々しき一大事である。

もはや小手先の対策で凌ぐことが難しい事を悟った幕府首脳

部は、抜本的対策に乗り出す必を感じ、盛りのついたオス犬

の性欲を宥めることで、市中の被害と幕府の負担を軽減しよ

うと考えた。

最初は、各地からメス犬が狩り集められた。だが、出生率バ

ランスから言えば、メス犬の個体数は、オス犬に比べ圧倒的

に少ない。加えて、前述の通り発情期以外の時はオス犬に目

もくれない。

これでは、数千から数万のオス犬の性欲を宥める事は難しい。

食用として犬が飼われていた高麗にまで手を伸ばし、牝犬の

確保と繁殖に務めようとした。だが、一度に輸送できる個体

数には限りがあり、また、折角仕入れためす犬達も長期に亘

る航海の途上、疫病によりバタバタと死んでいく始末だった。

また、メス犬を増やすことは、同時に出産数も増える事も意味

する。オス犬の性的欲求を満足させると、必然的に出産数は

増えるから、結果として見れば、暴れ犬の再生産を助長する

結果にもなる。かと言って堕胎や間引きをすれば、幕府自ら

が、定めた法度を破る事になる。

かくして幕府首脳は頭を抱えた。

何とか代わりになる(..オス犬どもの欲求をなだめ、子犬

を再生産する事も無い..)物は無いか・・。

老中首座柳沢出羽守保明は、幕閣のみならず、綱吉が建立し

た湯島聖堂の儒者・博士(所謂漢文を解する知識人のこと)

その人脈を駆使してあらゆる階層の人材に知恵を求めた。

古今東西の妙薬、加持祈祷の類、果ては呪詛の方法と言った

珍案まで飛び出す始末。

しかし、どの案にも一長一短あり、これと言った決め手が無く

忽ちのうちに手詰まりとなってしまった。

そんな中、『妙案』を申し出た者がいた。めす犬の代わりと

なり、子犬を孕むことも無い、代りの物..、そう..

飛び切り新鮮な、犬ども専用の『性欲処理』動物をオス犬

どもにあてがうことを..。

誰しもが思いつかなかった妙案を申し出たのは当年とって45

を数える南町奉行飯尾豊前守であった。


飯尾豊前守保長(いいお・ぶぜんのかみ・やすなが)、名こそ

いかめしいが、元をただせば館林城下の町医者の倅である。

公方綱吉が館林公にあった頃から柳沢の家に仕え、主の出世と

共に、陪臣から直参旗本へと取り立てられた成上り者であった。

幼い頃から英才の誉れ高く、将来を期した親によって、柳沢

の家に奉公に上げられ、主の出世と共に、今日の地位まで

登り詰めた。徳川譜代の臣にも同様『飯尾』姓を持つ家があるが、

あちらは大名家、氏は同じと言えど育ちは異なる。元々系統が別

なのである。

ついでに言えば、豊前守を名乗ってはいるが、別に豊前国の

領主と言うわけでも無い。柳沢出羽守が出羽国主で無いのと

同様、幕府に願い出て頂戴する、単なる『称号』の域を出ない

ものと思って間違い無い。

ただ、その名前からも察せられるように、柳沢から緯名を頂く程の

綱吉−柳沢ラインに連なる..いわゆる館林以来の寵臣である。


当代一の実力者の寵を受ける飯尾の建議は、二も無く、即座に

評定所にてお取り上げとなり、その日のうちに上聞に達する

こととなった。なお柳沢公によれば、上様には殊の外上機嫌にて、

本案をお取り上げになられたとのことであった。


斯くして幕府は、南町奉行飯尾豊前守の建議により、人間の「おんな」

を「お犬様」専用の『犬女郎』として、オス犬どもにあてがうことを

決定したのである。




流紋を描く白州の上には、若く美しい女が引き据えられていた。

ここは、ご存知『裁きのお白州』である。

実は綱吉の頃、江戸の町に「町奉行所」なる建築物は存在しない。

TV等に出てくる奉行所の建物は、後の名奉行大岡越前守忠相が

その在任中に建設したものであり、それまでの時代は、町奉行に

任ぜられた者が、自宅屋敷を役宅として使っていた。故に町奉行

職を務める為には、それ相応の広さの屋敷が必要であり、江戸の

初期、町奉行職は通常万石取り、或いは相当の格式のある譜代大

名の務める職位であった。

勿論、それだけでは忽ちのうちに人材が払底してしまう。そこで、

後には、三千石クラスの旗本でも務められる職務となった。

月番にあたる南町奉行飯尾豊前石高はやっと三千石。だが、館林

以来の柳沢の寵臣として、万石取りの大名以上の権勢をふるって

いた。当然の事ながら役宅も分不相応に見える程の豪奢な屋敷を

構えている。

さて、話を『白州』に戻そう。

引き据えられた女は、武家風に髪を結っており、罪人ながら、

生まれながらの気品を漂わせている。

旗本或いは御家人のご内儀であろうか。だが、引き据えられた

その腕は後ろ手に括られ、その胸には無惨にも菱縄が幾重にも

かけられていた。歴とした武家の妻女らしからぬ扱いである。

ほつれた髪が、心労でやつれた頬に絡みついている。

身分制度のやかましかったこの時代、『士分(武士階級のこと)』

の者が白州に引き据えられることは余程のことでも無ければ、

まずあり得無い。

よく時代劇などで、黒幕である悪代官と、その手下の無法者が

同じ白州に座って裁きを受ける場面などがあるが、そのような

形で上下を一緒に座らせるようなことは先ず無いし、あったと

しても、それは法整備の遅れていた、ごくごく初期の時代か、

若しくは余程の重罪の者に限られていた。

勿論、縄の打ち方にも身分・罪科による差がある。

いかに貧乏御家人の妻であったとしても、このような仕打ちを

受けるのは、余程の重罪に相違なかった。


「ご内儀、面(おもて)を上げられよ。」

女は顔を上げた。やつれてはいるものの、きりりとした美しい

面差しは、堕ちたりとは言え、さすが武家の内儀としての風格

を漂わせていた。

「名を尋ねる。」

「はい、御家人美作信之助(みまさか・しんのすけ)が妻、志乃

と申します。」女は顔を上げ、はっきりと壇上の役人に言った。

「書院番役付御家人、美作信之助が妻女、志乃に相違無いか。」

「はい。相違ございません。」

「その方の夫、美作信之助は先刻、目付赤坂丹後守殿が屋敷にて

切腹を申しつけられた。仕置は明後日、同屋敷中書院にて執行わ

れることになっておる。子細は存じておろうな。」

「はい。先ほど私めをお調べになった町方の方より伺いました。」

知っていたこととは言え、『夫』の処刑の知らせを聞かされる

ことは何より辛い。

女はがっくりと肩を落とし、うなだれた。

飯尾は気の毒そうな声で尋ねた。

「ところで御内儀殿は幾つになられる。」

「二十五にてございます。」

「ほう..まだお若いのに気の毒な..。」

「..」

「信之介殿は婿養子と伺ったが、お幾つであったかの..?」

「主(あるじ)は今年三十になります。」

「三十と二十五か..何と..あたら若き命をのぉ..。」

飯尾の言葉に、俯いた志乃のまぶたから一筋の涙がこぼれ落ちた。

「祝言をあげられてからは何年になられる?」

「はい。丁度10年になります。」

「なるほど..。子はおられるのか?」

「いえ。」

「そうか..」父の罪に連座して刑に処せられる幼子が無いこと

だけが唯一の救いであった。

だが、たとえ婿とは言え、夫が切腹とあらば妻たる志乃も重罪は

到底免れ得ない。江戸町奉行大岡越前守によって連座制が緩和さ

れるのは、これより後、元号が『享保』に変わってからの事である。

「誠に気の毒ではあるが、お上の法度は法度じゃ。いた仕方無い

のう。」壇上の役人は志乃を見つめながら言った。

調べに担る役人の名は飯尾豊前守、そう、あの『南町奉行』の地位

にある旗本であった。

今日の東京都知事と警視総監を併せた権限を持ち、町方同心(今日

の警視庁警察官)を差配し、老中柳沢出羽守(吉保)に連なる館林

衆の一員として奉行すら一目置く実力者..。

それが飯尾に対する一般の風評であった。

「後生でございます。・・夫は人の道に外れた罪を犯したわけ

でなく、ただ、通りすがりの子供の命を救いたい一心で、『お

犬様』を追い払おうとしただけなのでございます。何卒、何卒..

お上のご慈悲を..」志乃は夫の無実とその助命を必死に訴えた。

それが武士の妻として、どんなに見苦しい仕儀であることはわ

かってはいた..。

だが、相手はたかが狂犬1匹である。その命と引き替えに、我が身は

いざ知らず、愛する夫の命を奪われるのは堪らなく辛く、切ないい

ことだったのである。

「うむ、その通りじゃ。だが、その結果、その『お犬様』を斬

ってしまった。『お犬様』に刃を向けるは天下の大罪。罪を認め、

自ら番所に参ったは、誠に神妙であるが、さりとてご政道に

背いた者を捨て置くわけにも参らぬ。さてさて..」

「そこを何とか・・お慈悲を。お役人様、何とかお目こぼしを

・・・。」

「・・う・・む。」志乃の訴えに、南町奉行は目を瞑り、腕を

組みながら、しばらく何か考える風であったが、さっと志乃の

近くまで降り立つと、その耳元で何事かを囁いた。

「..と言うことじゃ。」

「ま..まこと、夫の命をお助け頂けると・・。」

「うむ。武士に二言は無い。お主が身を以て『お犬様』に罪を

償うと言うのなら、罪を不問に伏しても良い。」

「ほ、本当でございますか。」

「誠じゃ。だが、これからの生涯、『お犬様』御料所でお犬様

の世話役として奉公して貰わねばならぬ。お主にそれが出来るか?」

「はい・。」

..犬の世話ぐらいで愛する『信之助』様の命が救われるのなら

...志乃はその場で飯尾豊前守の申し出を受けることにした。

 


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刺青

奉行所の一角に設けられた仮牢の中には、志乃の他、9人の

同年代とおぼしき娘達がいた。

それぞれが夫、兄弟、恋人あるいは父親の罪を償う為、町奉行飯尾

豊前守から直々に因果を含められた娘ばかりであった。

どれも皆、若い娘ばかりで、志乃を除けば皆年齢も16才から20才

くらいまで、結髷、着物から見て、町方、武家、百姓..様々な

階層の出身者が入り混じっており、江戸各地から集められている

ようであった。

「お武家の奥様、これから私達はどのようになるのでしょうか。」

一番若い娘が、志乃に訊ねた。

「さあ・・でも『お犬様』の身の回りの世話をすることになると

聞いておりますが..。」

「お犬様の世話を..奥様も・・そうですか。」

これから自分達の身に降りかかる運命がどのようなものなのか、

その場の誰もが想像することすらできなかった。

ただ、不安げな囁きが交わされ、時間だけが過ぎて行った。

半刻(1時間)ほど経った頃、廊下の奥から、ドヤドヤと

足音が近づく音がした。

牢屋の格子の前に立った足音の主たちは、粗野な印象で、とても

奉行所の役人には見えない風体をしている。

「おい、女ども。どいつでもいい。一人づつ順番に奥へ来い。」

突然の事に驚いた娘達は牢の奥に身を寄せ合った。

どの娘の顔にも恐怖の色が浮かんでいた。

「ほれほれ..先ずはどいつからだぁー。」

男達は牢の中に入ると、女達に手を伸ばし始めた。

その時である。

ピシャン!

「無礼者!」平手が男の腕を弾き飛ばした。

「あいててぇ..。てっ..てめえっ何しやがんでぇっ!」

「何をするのか..と、それはこちらの台詞です。ご覧なさい。

このように怯えているではありませんか。私から参ります。

ですから、この方達には手出しをしないで下さい。」

凛とした表情で志乃は立ち上がった。

囚獄にあっても、仮にも幕府直参御家人の妻に対して、男の

態度はあまりに『無礼』であった。

志乃はいささか鼻白みながら立ち上がった。

「そうか。お前か。うん、おまえでいい。おまえ、ちょっと

来い。」

「勿論参ります。ですが、何の御用でしょうか。皆怯えています。

何をなさるのか教えなさい。」努めて気丈な振りで志乃は応答

した。

「これはお武家の若奥様ですかい。そいつはとんだ御無礼を・・。

まあ、来ればおわかりになりやしょう。」男はにやにやしながら

志乃の肩に手を置いた。

「下郎、無礼であろう。」途端に、志乃の平手が男の手をぴしゃり

と払いのける。

突然の剣幕に男は一瞬たじろいだものの、相手が女囚であることを

思いだすと、すかさず肩をそびやかした。

「うるせえ、このアマ。お上の御用だ。うだうだ抜かすと、

てめえの愛しい人が大変な事になるぜ。」

『愛しい人が・・』その文句に撃たれたかのように、志乃は

態度をあらためた。潔くここは下郎どもに従うしか無い・・。

「わかりました。ただいま参ります。」


格子の外に出た志乃の身体に縄が打たれた。手を後ろに括った

縄が首から乳房を挟むようにぐるぐると巻かれる。

「役目ご苦労。」下卑た笑いを顔に浮かべながら縄掛けする男の

無礼な視線を撥ね返すように、志乃は凛として言った。

「奥様・・。」不安げな表情でさきほどの娘が見上げる。

「大丈夫よ。大丈夫だから..。ねっ。」後に残る娘達に

だけで無く、自分にも言い聞かせるように頷くと、志乃は

廊下の奥へと引き立てられて行った。

万一囚人が脱走した時の為に、複雑なカギ形に曲がって作

られている廊下の奥に、その部屋はあった。

「さあ、入んな。」

襖が両側に開け放たれると同時に、志乃は部屋の中に押し

込まれた。。

最初の部屋に待っていたのは、鋏を持った2人の年輩の女中だった。

男達にせき立てられ、括られたまま、その場に正座をさせられる。

「な、何をするのです。」

「あんた。ここで髪を下ろして貰うよ。」

「ええ?」志乃は驚いた。この時代、髪を下ろしてしまうと、

髷を結う事は出来ない。

髪は女にとって『いのち』に等しい。その髪を結うのは、普通の女

のたしなみであり、この時代、正式な髷を結っていないのは、

『尼さん』でなければ、女郎くらいしかいなかった。

つまり髪を結えなくなることは、世間から女として、『普通の女』

に見られなくなる事を意味していた。

勿論、髪を下ろすと言っても坊主頭になるわけでは無い。

今日で言うセミロング程度の長さはあるのだが、それでも当時の

『普通の娘』にとってみれば、髪を切られる事は大変な屈辱だった。

「『お犬奉公』には、その髪が邪魔なんだよ。」

「『お犬奉公』・・それはお犬様のお世話をする事なのですか..?

それとも..。」

「さあね、お犬様に仕える仕事だと聞いているよ。そんな事は

アタシ達にとっちゃどうでもいいことサ。それより、さあ、

とっととそこに直りな。」女の言葉に同調するように、男が縄を

ぐいと引いて志乃の身体を引き据えた。

あっ・・と言う間もなく、志乃の髪に鋏が入れられた。

ザクッザクッ..

..と、切られた髪が、まるで落ち葉の様に床に散らばった。

女の命である髪の毛を切られた衝撃に、志乃はしばし言葉を喪った。

「ほら、ぼやぼやしないでこっちに来るんだ。」髪を無理矢理

下ろされた衝撃も癒やす間も無く、男達に両脇を抱えられて

次の間に連れ込まれた志乃は、室内に置かれていた物を見せ

つけられ、はっと我に返った。

四隅に鎖が取り付けられた戸板と、何かの画材らしき筆、墨道具

のようなものが、室内ところ狭しと広げられている。

バンッと言う音と共に、志乃の後ろで襖戸が閉められた。

蝋燭の灯りにぼうっと浮かび上がる、不気味な男達の影..

「さあ奥方様、お召し物をすべて脱いで、生まれたままのお姿に

なっちゃあ頂けやせんかねぇ。入れ墨を入れるのに邪魔なもんで。」

「何と!」志乃は我が耳を疑った。強制的に女の命である髪を

切られたあげく、雪のように滑らかな肌に罪人同様、入れ墨を

入れようと言うのだ。しかもこのように大勢の男達の目の前で。


入れ墨と言えば、一般に島送りとなるような重罪を犯した者に

科せられるものであり、それに相当するような悪業を犯した

覚えも無い志乃にとっては、まさに暴挙..、それがいかに

『お上』による所業であろうと、到底許されるはずのない暴挙で

あった。

「さぁ、奥方様。こちとら時間がつかえてるんだ。さっさとお召し物

を脱いで、生まれたままのスッポンポンになっていただけやせんか。」

男達はじりじりとにじり寄った。

「何と..、何と無礼な。私を裸にして、入れ墨を入れるなどと

言うのか。そっ..そのような無礼を働くようであれば、たっ..

ただでは..おきませぬぞ。」

後ろ手に縛られたままの志乃は、男達を睨み付けた。

相手が縄で雁字搦めに縛められていることも忘れた男達は、

そのあまりに鋭い眼光に、びくりと立ち止まった。

だが、所詮は女一人..相手は腕に覚えのある男ばかりだ。

勝ち目等あろうはずもない。志乃の虚勢はすぐに見破られた。

親玉とおぼしき男が前に進み出る。

「おうよ、ただでおかないならそれでも結構。そのかわり、

おメエさんの愛しい旦那がどうなっても俺達は知らねえぜ。

おめえの亭主は天下のご法度を破った大罪人。おめえさんは、

その男の身代わりだ。言ってみりゃあ、同罪の科人よ。科人に

墨を入れるのに何の不都合がある。」

「それは・・。」志乃の気勢が削がれた。

女の気迫が薄れたのを見て取った男達は間髪を入れず襲いかかった。

「なっ..何をす..むぐう..むむむ..」

両手・両足を抑え込まれ、口には舌を噛み切らないよう猿轡が

箝められる。大の男が4、5人がかりでか弱い女をいたぶるのだ。

瞬く間に帯が解かれ、着物、襦袢と次々に剥ぎ取られる。

「うぐうう。」生まれたままの姿に剥かれ、狼の群の中に投げ込まれた

兎の様に弄ばれながら餌食にされる志乃。

そして、必死の抵抗も空しく、四肢を戸板の四隅に、大股開きの

姿勢で、括りつけられてしまったのである。

「へっへっっへ。」下卑た笑いを浮かべながら、男達は志乃の

身体中を舐めるようにじろじろと見つめた。

見ず知らずの男達に、生まれたままの全裸を晒さなければならない

羞恥に、志乃の白い柔肌は見る間にほんのり桜色に染まっていた。

「お武家の奥方と言っても、付いてるお道具はその辺の夜鷹と

一緒だぜ。」男の一人が志乃の女淫に指を突っ込んだ。

「ふぐうっ..」僅かに動く顔だけを起こし、必死の形相で抗議

する志乃。だが、やがてその表情は諦めと屈辱に歪んで行った。

「へっへっへっ、俺様の指は気持ちいいだろう、姉ちゃん。」

「うぐぅ、うぐぅ。」無体な狼藉に志乃は目を見開いてもがく。

「しかし、もちもちとした肌触りは、さすがお育ちの良さだなぁ。」

もう一人の男が志乃の両方の乳房を握り、強く揉み込んだ。

圧迫に血流が刺激されるのか、指の間からはみだした乳首が充血し、

たちまち勃る。握りつぶされた乳房..そのもちもちとした

柔肌が、男の手形で赤く染まる。

「はぅっ..あぐうっ..」敏感な乳房を握りつぶされる苦痛

と羞恥に、志乃の猿轡から呻き声が漏れる。

「へっへっへ。美味そうな肉だぜ。」他の男達も手を伸ばして

志乃の肉を嬲りまくる。それは、到底『愛撫』とは言えるよう

な柔なモノではなかった。どの手も荒々しく、力強く揉みしだ

き、抓る、握り潰す..。皮に覆われた繊細な部分すら、強制

的に剥き出され、弄虐の標的となった。

あられも無い姿を晒された志乃に、乱暴狼藉の限りを尽くす男達。

猿轡さえされていなかったら、とうの昔に舌を噛み切っていたに

違いない。

「うぐぅうぐぅ。」必死になって悶え苦しむ裸女。

へへへへ・・男達の下卑た笑い声が志乃を包み込む。

「さて、お楽しみは後回しにして・・。そろそろ仕事にかからして

もらおうかい。」

志乃の感触を一頻り愉しんだ後、男の一人が穂先に針が幾本も付いた、

剣山の様な針束を取り出した。

この時代、罪人はその罪状と前科に応じて刺青を入れられることに

なっている。男はこの獄舎で、刺青を専門とする彫師の源次、

通称を『彫源』と言った。

 

「こいつをゆっくりとお前の肌に味合わせてやるぜ。」

彫源はにやにやと笑いながら、椀形の乳房の中央から、ぷくりと

突き出した乳首にぐりぐりと針束を押しつけた。

「うぐううう。」敏感な突起を襲う激痛に耐えかね、猿轡のわき

から呻き声が漏れる。

「痛いか・・痛いだろうなあ・・。」

乳首の周囲に血が滲む。

ブスッ..ブスッ..ブスッ..

左右の乳首を中心に、剣山の様な針束を、何度も何度も乳房に突き

刺した。

彫源は男女を問わず入れ墨を入れる事で苦悶する相手を見て性的

興奮を得る、現代で言う『サディスト』だったのである。

苦悶の表情を浮かべもがき苦しむ姿を一頻り楽しんだ後、彫源は言った。

「さあ針が肌に慣れたところで・・仕事にかからせて貰うよ。」

彫源はいったん針束を志乃の乳房から離すと、血の滲む乳首を片手で

捻りながら、針束を墨に浸していた。

「こいつをおまえの柔肌に突き刺していい文字を彫り込んでやる。」

嗜虐的な笑みを浮かべながら男は墨の滴る針束を近づけた。

「うぐぅ、うぐぅ・・。」これから自分の柔肌に一生消えぬ刻印が

されるのだ。志乃は生まれて初めて味合わされる未知の恐怖に怯え、

首を左右に振り立てた。

「猿轡をしてやった事を感謝しな。でなきゃもの凄い痛みで、

ションベン漏らすだけじゃなく、下手すりゃ舌はおろか唇だって

噛み切っているところだ。」男の針先が志乃の太股の内側に刺さる。

ぐりぐりと無数の傷を付け、墨を擦り込んで行く。

「あぐぅ..ぎゅう..あぐぐ..ぎゅう..」苦悶する志乃の口

から漏れる悲痛な呻き声。

「痛いか。ふふふ、痛いだろう。」刺青に苦しむ女の苦悶がその男

にとっては無上の快楽だった。

「うぎゅううぅ・・。」くぐもった悲鳴が獄舎に響く。

墨をふき取る布きれにうっすらと血が滲んでいた。

「肌が白くてすべすべしているから、墨の『のり』も最高だぜ。」

次々と太ももに刻まれて行く、黒々とした『御犬様御用』『犬女郎』

の太文字。半刻ほどで志乃の身体には、一生消えぬ屈辱の刻印が

きざまれていた。

一間の薄い戸板は、乙女の激痛と屈辱の涙、それに血までも

吸い込んで行った。


こうして..全ての文字が彫り終わったのは..志乃がここに連れ

込まれてから、半刻ほどの時間が経った頃だった。


墨を乾かし、皮膚になじませる為に、志乃は相変わらずの素っ裸で

戸板に括られたままだ。

じんじんと皮膚を苛む激痛に、もはや涙は涸れ果て、拭う事すら

許されぬ涙の残滓が頬に白くこびりついていた。

「たまらねえなぁ。」男達がかわるがわる志乃の柔肌をのぞき込む。

「あ、兄貴ぃ。おらあ、この娘とやりたくて堪らねえんだ。」

男の一人がついに褌を弛めた。着物の裾を跳ね上げるように、

屹立した肉柱が中から現れる。先端をヌラヌラとさせた赤黒い巨物

をブラブラとさせながら、志乃の太股の間に膝を着く。

「おいおい、これから何人もの未通娘を味わえるというのに、

こんな年増で抜いちまっていいのかよ・・。」

「いんや、兄貴。俺ぁ、こんなイイ女にハめた事ぁ一度もねえ。

いっ..一度でいいから、こんな別嬪さんにぶちこんで見たか

ったんだぁ。」

「じゃ、まあ、しょうがねえ。やるなら、さっさと犯っちまえ。」

「すいやせん。へっへっへ。お武家の奥方様とやら・・。身分貴き

赤貝の味、さっそく味見させていただきやすぜ。」

柔肌に墨を入れられ、痛みも癒えぬ志乃の上に、最初の男が

のしかかった。放心状態の志乃に抗う気力は無い。

しかし墨を入れられたばかりの傷はズキズキと強烈な痛みで志乃の

柔肌を苛んでいた。

故に男の肉柱が志乃の充血した淫裂にぬめり込むと同時に、志乃の

意識は、否応無く覚醒させられた。

『あぐぅぅぅ..』猿轡から漏れる呻き声..。

「うぉっおお..なんていい気持ちなんでぇ。」

ジュブ..ズブブブ..肉茎が志乃の秘裂を徐々に貫いて行くにつれ、

体内に焼火箸を捩じ込まれる様な感覚と、血の滲む太股にヤスリの

ような剛毛を擦り合わされる激痛が志乃を襲った。苦悶の為に美貌が歪む。

「あぐっ・・うぐぅっうぐうぐっ。」猿轡の奥から哀れな女囚の

悲鳴が洩れる。もはや先ほどの凛とした『直参の奥方様』の矜持など微塵もない。

大股を広げ、犯される為だけにそこに存在が許される哀れな女体..

それが今の志乃の姿だった。

「へっへっへっ俺様の一物はどうだ。」男は志乃の苦悶を無視するか

のように一気に肉壷を突き上げた。

「うぐ・・うぐぐ・・。」地獄の針山に尻から突き抜かれる様な

苦痛に、志乃は再び苦しげな声を上げた。

「おおっおう、こいつは何てなんて良い気持ちなんだ。ぐいぐいと

締め付けてきやがるぜ。」男の肉を締め付けているのは、決して

快感によるものなどでは無い。恐怖と激痛に収縮した臓器が、

たまたまそこにある男の一物を締め付けているだけなのだ。

「あぐぅ・・むむむ・・。」男が志乃の中に爆ぜた瞬間、志乃は

失神した。

「おおぅ。こいつはいい。おっおっおっ。」最初の男は志乃が白目

をむいて失神した後も、数度となく志乃の腰を突き上げた。

「おおぅ..おおお..」ぴゅうと己が精を絞り切った後、男は

やっと志乃の上から離れた。

「へっへっへっ。次は俺だ。」失神し死んだように眠る志乃の

上に、次の男がのしかかる。

「あがおぐぉ..(やめて下さいまし..御願い..)」

だが、声にならない志乃の悲鳴は、ただ空しく口に噛まされた猿轡

に吸い込まれて行くだけであった。

(..御願い..誰か..誰か助けて..)


結局、次の番の娘がこの部屋に連れ込まれるまで、志乃に対する

陵辱の時は続いたのであった..。


こうして次々と罪なき娘達は、入れ替わり立ち替わり男達の欲望

にまみれて行ったのである。

その日..阿鼻叫喚の地獄絵図がこの部屋に展開され、1日は終わった。


その壁の裏側..きらりと光る『目』があった。

ふっふっふっ..

隠し扉から現場の一部始終をながめている男は、飯尾豊前..

いわばこの事態の黒幕である。

その飯尾が、壁の向こう側から、一人満足げにほくそ笑んでいた。

娘達が逃げ出して、二度と娑婆の世界へ戻ろうなどと思う事の無い

よう徹底的に責め嬲り、陵辱する事。それが南町奉行・飯尾豊前守が

下人どもに与えた下知だったのである。


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[ 2007/07/15 08:53 ] 犬女郎哀歌 | トラックバック(-) | コメント(-)